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2007年9月2日開始。いつまで続けられるかな?
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水族館を出て、昨日閉まっていた鉄輪の食堂に向かった。

明かりは灯っていなかったが、人の気配があったので、
思いきって入口で「すみません、今日は営業していますか?」と訊ねてみた。

すぐに「はいはい、どうぞどうぞ」と通された。

ネットでは地獄蒸し卵いりラーメンとオムライスが評判メニューらしかったので、それを注文した。対応してくれている女性をそれとなく見るけれど、Kちゃんのお母さんにしては年齢が少し若い。
顔も似ていない。
店内を見回して、20年前に一度きた時の食堂の記憶を一生懸命取り戻そうとする。けれどお店は綺麗で、どう見ても数年前に改装したばかりという感じ。店からは何も手がかりが増えない。

奥で料理しているおじさんが、でき上がったラーメンを持ってきてくれた。顔を見るけれど、その時一度会っただけのKちゃんのお父さんの顔は覚えていない。年はこのくらいかも知れないけれど…わからない。

この人が Kちゃんのお父さんだったら…。
Kちゃんがもう死んでしまっていたら…。

そう思うと、急にきゅっと胸が詰まったように苦しくなった。

最初からわかっていたことじゃないか。
もし、Kちゃんが亡くなっていたら、お参りだけでもさせてもらうんだ。
そう決めてきたじゃないか。

恐る恐る、「すみません、こちらは、Mさん(Kちゃんの名字)の経営でしょうか」と訊ねた。

相手は怪訝そうに、「いえ違いますけど…」と引っ込んでしまった。

違ったのか。
少しほっとするような、がっかりするような気持ち。

このおじさんは、接客がとても苦手な内気な感じの人だったので、それ以上話しかけるのはちょっと気が引けてしまった。
接客担当の女性が、つぎのオムライスを持ってきてくれた。

「あの、唐突に変なことを聞いてすみません。この辺りに、KM(Kちゃんの氏名)さんという方はいらっしゃいませんか。実は、20年前の友人を探しています」と事情を簡単に説明した。

女性の店員さんも、料理してくれたおじさんも、事情がわかるととても親切にしてくれた。
近所に民生員をしている人がいるので、その人の方がわかるかもしれない、と紹介してくれて、鉄輪の地図をくれた。

料理はネットで評判になっている通り、とても美味しくて、娘はぺろりと平らげてしまった。お代わりをしたいほどだったと言っていた。「じゃあ大盛りにすればよかったねえ」

店を出るとき、女性の定員さんは「大丈夫、本名もわかってるんだし、きっと見つかりますよ」と励ましてくれた。あり難かった。

もともと、Kちゃんを探す手がかりはほとんどなかった。
本名と、親が鉄輪で食堂をしていること。それだけなのだ。
探し出せる保証は何もなかった。

民生員をしているというたばこ屋のおばあちゃんを訊ねた。
事情を話したが、まったく心当たりがないという。
20年前の食堂のことなら、古くから店をしている人に聞いたらいいと、別の飲食店を教えてくれた。
その店に行くと、忘年会で貸し切りになっていた。

忘年会に水を差してしまうのではと恐れつつ、事情を手短に話すと、「ほら○○さんに聞いてみろ。あの人は顔が広い」と店主らしきおじさんが言い、奥さんらしきお店の人は電話をとって、知り合いに電話して、Kちゃんを知っている人が居ないか、ほうぼう調べてくれた。20分ほどもかけて、電話で聞き込みをしてくださる奥さん、奥で料理をしながら見守っている店の主と、忘年会のお客さんたち。

私たちは雪の降る年末の珍客。
本当に恐縮してしまう。

電話を切って、「わからないねえ。すみません」とお店の人。
「店をしている人はお互いに屋号(店名)で呼び合っているからね。本名なんて知らないよ」

せめて屋号を思い出せたら…と思ったが、まったく思い出せない。
「すみません。屋号を覚えていなくて…」
「見つかったらよかったのにねえ。役に立てなくてすみませんねえ」
「いえ、とんでもないです。みなさんお邪魔しました。本当にお世話になりました。ご親切に、ありがとうございました。」

娘と二人、お店を出た。
この日の捜索はあきらめるほかなかった。
鉄輪に来られるのは、あと2日。
時間がない。明日、地元のラジオ局に投書してみようか…。

そう考えながら、しんしんと雪の降る鉄輪を娘と二人とぼとぼと歩く。
年末で、大雪で、歩いている人は誰も居ない。
石畳の坂、道の端から湯気が暖かげに立ち上る。
娘はこの旅情溢れる景色を楽しんでいる。

「ママ、足湯って書いてあるよ」
無料の足湯と足蒸し風呂があった。
気持ちを軽くして、娘と二人、入ってみた。
こんな熱い蒸気が一年中出ているなんて、本当にこの場所は面白い。
靴下を脱いで、ズボンの裾をひざ上までまくりあげて、熱過ぎるほどの蒸気に足を突っ込む。
「あちちち」
他には誰も居ないので、二人で写真をとったり、足湯に浸かったりして遊ぶ。

温まった足に靴下を履いて、また外にでるとすぐ娘が、「地獄蒸しってなーに?」と聞いてきた。
見れば、出来たばかりの地獄蒸し体験館があった。
体験料500円払って、持ち込んだ食材を地獄蒸しにできるという。今日はもう店じまいのようだ。
「やってみたーい。パパと来たいね!」「そうだね」
娘は「体験」と名のつくものはなんでもやりたがる。私も出来るかぎりやらせてあげたい。こういう体験の数々が、この後の人生を支える財産になっていくのだ。私はそう確信している。

予定していた柴石温泉が閉まってしまう時間が近づいたので、急いで車に戻った。
娘と一緒にいることは、いつでも私に新鮮な「今、この瞬間」を運んでくれる。二人でいると、自分一人でいるのとは違う視点、違う気づきが起こる。娘は大切な、旅のパートナーなのだった。

同じ別府でも、温泉の泉質は、一つ一つの温泉でまったく違っている。
柴石温泉は、初日に行った堀田温泉とはまた、まったく違う鉄分の多い温泉だった。
体は本当によく温まって、二人とも満足した。
娘が熱い風呂に適応しつつあるのが、面白い。
そして娘も「ぷはーーーー」と言うようになったので、笑ってしまう。

夕食が早めだったのと、Kちゃんのことで食べた気がしなかった。
娘も口寂しいというので、スーパーに行って夜食を買い込んだ。娘は「今晩も車なんでしょ?やったー」と喜んでいた。

車内泊はたしかにキャンプ気分で気楽だし楽しいのだが、この日、天候はさらに荒れ、暴風と大雪の予報だった。
夜中に雪の嵐になる。もし寝ている間、耐えられないほど寒くなってしまって、それに気づかなかったら、危険かもしれない。だから、車内泊をするならできれば屋根があり、風をよけられる場所に車を停めたかった。

市内をかなり走り回って探したが、残念ながら、そういう場所は全部、夜通しとめることは無理だった。そこで鉄輪に車を戻し、地面からたくさん湯気の出ている公園の駐車場で、試すことにした。すぐ側から大量の湯気が出ている場所だと、雪が降っていても寒さを相殺してくれそうな感じがして、わずかだけれど安心感があったのだ。もし車内泊が危険なほど寒かった場合に備えて、駆け込む予定の宿は事前に3つほど当てをつけてある。空室状態も調べてあるし、大丈夫だ。

娘はそんな私の思いを知らず、車でのキャンプ生活を楽しんでいる。
「ライフだねえーーー」と訳の分からん形容でノリノリ。
寝室と化した車内でゴロゴロ寝転がってご機嫌である。

車を泊めると、またガラスの面すべてに断熱シートで目張りをする。
まあ、なんとかなるかもな、という気がした。
大きな風が私たちの車を叩き付けると、車ごと揺れるけれど、もちろん横転するほどではない。

風の音は、自然の音。ここは大木のうろにつくった巣穴。
私たち二人は野生のキツネの親子にでもなったような気がして、二人、体を寄せ合って眠った。

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