休日の過ごし方

夫が行きたがるので
ホテルのランチバイキングで３時間ほどのんびり食事した。

後半は何も入らないので紅茶とコーヒーをお代わりしなが
ら　二人の共通のひまつぶしのための話題で盛り上がる。

大抵がコンピュータ技術かインターネット技術か携帯通信
の技術などの技術系の話。ロボット技術の話などもよく登
場する。

今日はネット犯罪や母さん助けて詐欺に関して、どういう
方法で騙し取るのか、それをどう取り締まるか、犯人をど
うやって割り出すか、どうやって逃げおおせるかなどを素
人ながらにあれこれ話していた。

「準備として何が必要かな」
「何人くらいの規模になるかな」
「いやそれは確実に足がつくね」
「こうすればもう痕跡を辿られない？」
「海外に拠点が必要かな」
「逃亡するのは普通の犯罪者みたいでかっこ悪い。逃げず
　に絶対に見つからない方法ってあるかな」
「そのプランには抜けがある、使えない」

などの言葉がささやかれていたせいか、隣の席の女性が
聞き耳を立てているのに気づいた。
犯罪の相談をしていると思われると大変だね、と目で合
図してその会話をやめることにする。最後に
「完全犯罪なんてやっぱりありえないね。必ず捕まるリ
　スクの高い瞬間があるから。無理無理。」
と言って締めくくる。
お隣さんが、単なる雑談の一つをしていただけか、と納
得してくれればいいけれど、と若干心配しながら。

私たちの会話にタブーはない。
世の中に現実として起こりうることのすべてを聖域なく
興味の一つとして議論するのが　私たちの共通の娯楽なの
だ。だから時には犯罪者の立場、加害者の立場にもなって
みる。実際に思いつくあらゆることが実現可能なのかどう
かを、テーブルの上に広げて検証するという娯楽なのだ。

夫が私の休日に外食をしたがるのは、食事の後のこのコー
ヒータイムに、その時気が向いた一つのテーマでどこまで
もタブーなく追求し続けることに没頭する、この娯楽を
こよなく愛するからだ。
もちろん私も、こうして思考にふけるのは楽しい。

こうして技術的なことを話すことで、最近夫が仕入れた最
新の技術情報や夫の今の興味の対象を知ることができるし
私の知っている情報を彼に伝えることでお互いの情報交換
とコミュニケーションにもなっている。

そういう話をしていると、いつもお店から追い出されるま
で粘ってしまう。思う様話せる相手にお互い恵まれていて
私たち夫婦は本当に幸せものだなあと思う。

食べ過ぎたお腹の消化を助けるために大型ショッピングモ
ールの中を三時間ほど散歩代わりに歩き回って娘に小さな
プレゼントを見つけたりしている内に　すっかり日が落ち
て夜になる。

ランチにビュッフェに行った日は　必ず夕食を抜くのだけ
れど食べないようにしているのではなく胃腸が疲れていて
食べられないからだ。私も彼も、すっかり年をとったこと
を意識せずにはいられない。

だけど娘の夕食は用意しなければならないから　少し急い
で家に帰る。

一日、何もせず　ただ娯楽に興じて過ごす。
こういうのが、休日と言える一日なんだろうなと実感する。


老後がこういう一日ばかりで過ごせたらいいな。
お互い、相手が先に死んじゃったら困る。
こういう話にとことん付き合える相手は　ほかに居ないからね。

でも完全犯罪についてあれこれ言い合っている老夫婦って
すごく滑稽で笑えるなあ。。。